新・オニの一人暮し(6)
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文章 田中俊和


第六回
入院中日記<盲腸編>


病院にて


 日記を見てくれている人は知っていると思いますが、8月のあたまに、盲腸やっちゃいまして、今は薬でなおせるんだと思っていたら、薬じゃなおらんからと言われ、病院に行ったその日のうちに、手術することになって、もちろん、そのまま入院するはめになってしまいました。それで、その間、日記はお休みしてたんだけど、病室でひまなので、ノートに日記はつけていたので、「オニの一人暮し」に、特別編としてのせることにしました。しかし当初、盲腸だから、一週間そこらで治るんだと思っていたのだが、たびかさなるアクシデント、ハプニングの結果、まさか、こんな、まぬけで、壮大(?)な、闘病記になるとは、思ってもみませんでした。

 実は、今この文を書いている9月2日の時点で、まだ病院のベッドの上にいます。というわけで、「オニの一人暮し」は三ヶ月連続で、入院の顛末をつづっていこうと、そういうわけです。手抜きじゃないよ。






8月9日(金曜日)
 数日前からなぞの胃痛と腸痛が、あまりにひどいので、もしかと思い、というかほどんど助けてくれって感じで、医者に行く。やはり虫垂炎。この病院では手術できんといわれ、さらに別の病院に、チャリで、トライアスロン気分でむかう。そく、入院。そく手術。初オペ。初麻酔が、思ったよりガツンときてショック。最高に気持ち悪い中、無事、手術終了。最悪の一日だった。夜中おしっこがでなくて、くるしむ。一睡もできず。



8月10日(土曜日)
 おしっこがでないので、サオの先に、チューブ入れる。激烈に痛い。真っ赤なおしっこが大量に放出。熱が高い。しかし、わしってかならず、ふし目ふし目になにかやらかすな。去年はとつぜんの引っこしだったし。一ヶ月プロテイン飲みつづけたのが水のあわ。体重はかったら、50キロだって。去年と同じじゃん。かなり落ちこむ。わしが少しがんばると、バイオリズム急降下。また自信をなくす。素子さんがわざわざ東京から見舞いに。さしいれの桃は、もちろん食えず。熱が高くて、素子さんが来た記憶がどうもあいまい。夢だったか? なにをしゃべったかほどんどおぼえてない。



8月11日(日曜日)
 おしっこチューブがきもちわるい。看病に来てた母さんも、仕事のため、実家に帰ってった。昼から石本が来る。昨日の夜も、彼女つれて来てたが、彼女とは初めてあったが、あまりしゃべらず。
 石本のさしいれはテンションのさがるマンガ数冊。あいかわらず気のきかせ方がへなくそなやつだ。悪気がないからよけいムカツク。盲腸よりも、おしっこチューブに苦労した一日だった。なんども血まみれ。



8月12日(月曜日)
 おしっこチューブはぬけたが、出血止まらず。生理気分。入院して四日間で、看護婦さんにチンポこねくりまわされすぎ。ふだんからチンポだしまくってるのでうんともすーともない。
 しかし、たいがいチンポ見られる時は、なにかトラブルがおこった時で、そのさいやつは、ショック状態でちぢこまっている確率が高く、みごとな仮性包茎ぶりで、それがちょっと不本意。夕方石本がまたやってくる。オーケンの本をさしいれ。腹をへらしたわしの前で、パンをむしゃむしゃ食いだす。腹がへってしゃーない。ラーメンが食いたい。バンド「やらずぶったくり」の北岡さんが見舞いに来てくれる。



8月13日(火曜日)
 石本のさしいれの、「オーケンののほほん日記ソリッド」を朝からぼんやり読む。もうオーケン本とかを、心のささえにするのはやめようと思っていたが、やはり、読むとおもしろい。昨日は、町田康を読んだ。ひさびさにゆっくり読書。これはこれでいいのかもしれん。テレビおもんないけど、昼ドラの「新・愛の嵐」は見ている。なんかとんでもないことになってて、おもしろい。ぼけ〜と見るのは、こんなやつの方が合う。
 血のおしっこがやっと止まる。健康的なクソがでた。
 アルバムのことを考えると、イコール金のことを考えてしまうので、入院中は、なるべくアルバム制作は忘れようとしているが、つい、つくりかけの新曲が気になってしまう。本当にアルバム出せるんだろうか? 午前中にオーケンのは読み終え、午後から、これも石本のさしいれの、ビートたけし「浅草キッド」を読みだす。そういや、オナニーしてないな。性欲もわかん。とにかく腹がへる。ベッドふたつはなれた足の悪いジーサンは、なぜかアニメばかり見ている。ジーサンは、ハイジと東京アンダーグラウンド見てた。



8月14日(水曜日)
 学校給食のような食事が、空腹のためかけっこうおいしく感じる。もう普通に食事していいのだが、病院のめしは量がきょくたんに少なくて、食べたそばから腹がへりはじめる。晩めしから次の日の朝まで十四時間もあり、昨晩も胃が痛くてまいった。病院に売店がないので食事以外なにも食えず、元気が出るにつれ、どうしようもないひまさが苦痛に。体重はかるとやはり50キロジャスト。50キロでは九月からはじまるバイトがかなりきつくなるだろう。もうバイトはしたくない。アルバムづくりだけに専念したい。食い物と金のことばかり考えてしまう。ひまだ。彼女でもおればと思うが、それはそれでうっとおしいのだろうな。
 むかいのベッドのおっさんは、アル中で肝臓こわして入院しているが、ひねもすピリピリムード。横の気の弱そうなジーサンにあたりちらしている。することがないので、日記が進む。毎日夏空。大家さんが見舞いに来てくれる。ゼリーつめあわせもらう。夜中の楽しみにしよう。
 アニメ好きのジーサンは今日はキン肉マン2世をしんけんに視聴だ。



8月15日(木曜日)
 また先っちょから出血。入院して一度もオナニーしてない。ピンク色の精子が出るから、オナニーもできん。火曜日からはだれも来ず、病室は、じじいばっかで、しゃべり相手もおらず、看護婦もおそろしくそっけないので、話しかけられず、ひたすらヒマ。本もぜんぶ読んじゃったし。ケータイの電池も切れてしまった。所持金も残り少な。はやく制作にうつりたい。
 今日の星占いは一位だった。ひらめきは行動にうつすべしって入院してるからひらめいてもなにもできないじゃん。むかい側のおやじは、ぶつぶつもんくばかり。年とるとなんでも口に出るのか。しかしわしも心の中ではおやじのようにぶつぶつ、ぐつぐつしている。バイトしたくない。本当にしたくない。
 すぐ近くに古本屋があったことを思い出す。こっそり病院をぬけだして古本屋へ。ほんの200メートルほど先の古本屋だったが、行って帰ってくるだけでふらふら。腹のキズがいたむ。ムツゴロウ本が大量に入ってて、まだ未読のやつを、四冊購入。一冊百円だった。これで、月曜日までもつだろう。所持金あと五百円。ヒマさえつぶせればまあなんとかなるか。タバコは一日三本。健康的だ。ひらめきの行動がわりと吉と出た。(安くで本が買えた)星占いどおりでよい。



8月16日(金曜日)
 早朝から読書。「ムツゴロウの放浪記」を読む。今の自分とかさなって、(人に見られないように)泣きながら読む。生活が単純化しているうえに体が弱っているせいで心までもろくなっていて、ムツゴロウ本は、抗生剤のようにしみこんでくる。
 ふたつどなりのジーサンは、足が悪く自分でトイレに行けないため、日に一、二度大便のすえたにおいが病室にただよう。ジーサンには気の毒だが、なんとなくみじめな気持ちになる。
 キズの回復が早く、朝、少しだけ抜糸。予定より早く退院できるかもしれん。「ムツゴロウの無人島記」にうつる。去年から畑正憲の本ばかり読んでるな。もうすぐ読破してしまいそうだ。ぜんぶ古本屋で百円くらで買ったものばかりだが。滅入った時の「ムツゴロウ本」。
 すぐとなりのベッドのジーサンだと思ってたおっさんは、じつは、自分が思っていたよりもずっと若いのではないかとふとよぎる。ガンで胃を摘出したのだというおっさんの顔は、やせこけ、皮がガイコツにはりついているだけといった感じだが、目玉だけぎょろりと大きく、黒目がジーサンにしてはみょうに若々しい。かわいそうというよりなんだか気味悪くおそろしくなった。おっさんは、希望などどこんもないという感じ。
 昼めしは、えだ豆と冷めんというよくわからん組み合わせだった。
 素子さんから手紙とどく。トキテツ元メンバーの福寿君からメールがきてたとのこと。福寿君がんばってやってんのかな。
 今日もだれも来ず。病室はいろんな人のため息で今日もよどんでいた。



8月17日(土曜日)
 自分のいる、六人部屋の一番入り口に近いベッドにいるジーサンは、退院がのびたことにより、この二、三日で、急激に痴呆が進む。一週間前自分が入院した時は、まだしゃんとしていて、まわりのせわまでしていたくらいだったが、退院の日に熱を出して退院が見送られたため、そうとうガッカリしたのか、急におかしくなってしまった。
 昨晩も、ずっと、一人でなにかブツブツ言っていたかと思うと、病室を出て、そこらを徘徊、何度も看護婦さんにつれもどされていた。夜中、一度トイレに行った時そのジーサンがトイレで、ヒゲをそっていたが、そのジーサンはどう見ても無精ヒゲすらはえてなかった。黒目がたてに細長く、緑色っぽくてヘビの目みたいで気味悪かった。朝五時ごろに食事がこないとパニックになりかけていた。さわがしく、気になってしょうがないので、ほどんど眠れなかった。
 もしかしたら今日退院できるかもしれんという希望はあまりいだかないようにしよう。わしもガッカリしてボケるといけないから。
 あたまかゆい。けっきょくきのうシャワーできなかった。六日頭も洗ってない。かゆい。ふだんなら頭洗わんくらい平気なのだが、こういう非日常的な空間にいると、身のまわりあれこれを、ふだん以上にちゃんとしたくなる。毎日歯もみがいている。きっちり消灯にねている。出血のせいでオナニーもしてない。一週間以上禁欲なのは、自慰行為をおぼえてからあるいははじめてじゃなかろうか。(ちなみに小2からしてた)不思議と性欲もわかん。ただ、希望のなさそうな老人たちにかこまれて、テンションはさがるわな。なんとなくさみしい。
 さみしいのは退院してもいっしょなのだが、軟禁状態なのでこっちの方が息がつまるぶん消耗がはげしい。長期入院している人は、年よりじゃなくたってこりゃ気が狂うよな。まだ、せきをすると、キズ口がキリキリと痛む。






そして、とりあえず、盲腸のキズのぐあいもよく、無事退院したんだけど、この盲腸での入院は、今回の入院日記のほんの序章にしかすぎなかったのです。

いったい俺の身になにが!? 来月に続く。



屋上にて

屋上にて石本氏と。8月27日
写真/大川素子



第七回目につづく。

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